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②矢部宏治『日本はなぜ「戦争ができる国」になったのか』





矢部宏治『日本はなぜ「戦争ができる国」になったのか』
つづき・・・

(中略)

突然ですが、ここでひとつ質問をさせてください。
みなさんは知り合いに、自衛隊の隊員のかたがいらっしゃいますでしょうか?
私は何人か友人に、自衛隊の隊員がいます。
そして、たとえひとりでも自衛隊に友人がいるかたは、現在の日本の自衛隊が、
「戦争になったら、米軍の指揮下にはいる」
というような、なまやさしい状態ではないことは、よくご存じだと思います。
そもそも現在の自衛隊には、
独自の攻撃力があたえられておらず、哨戒機やイージス艦、
掃海艇などの防御を中心とした編成しかされていない。
「盾と矛」の関係といえば聞こえはいいが、
けっして冗談ではなく、自衛隊がまもっているのは日本の国土ではなく、
「在日米軍と米軍基地」だ。それが自衛隊の現実の任ミッション務だと、
かれらはいうのです。
しかも自衛隊がつかっている兵器は、ほぼすべてアメリカ製で、
コンピューター制御のものは、
データも暗号もGPSもすべて米軍とリンクされている。
「戦争になったら、米軍の指揮下にはいる」のではなく、
最初から米軍の指揮下でしか動けない」
「アメリカと敵対関係になったら、もうなにもできない」
もともとそのように設計されているのだというのです。

こでこうした場合は、ひとつ前の段階にもどって、
もっと現状をよくあらわしている条文がないかどうか、
チェックしてみるわけです。
「戦争が必要とアメリカ政府が判断したら、日本軍は米軍の指揮下にはいる」
と書かれていた1951年2月2日のアメリカ側・旧安保条約原案の前に、
もっと現状にぴったりの条文がないかどうか。
すると、やはりありました。
それはその3カ月前、1950年10月27日に米軍(国防省)が
つくった旧安保条約の原案です。
その第14条「日本軍」には、なんとつぎのように書かれていたのです。
(左は同14条の第3節から5節までを矢部が訳し、独自の番号をふったものです)

①「この協定〔=旧安保条約〕が有効なあいだは、
日本政府は陸軍・海軍・空軍は創設127
PART1 ふたつの密約
「基地」の密約と「指揮」の密約しない。ただし、
それらの軍隊の兵力、形態、構成、軍備、その他組織的な特質に関
して、アメリカ政府の助言と同意がともなった場合、
さらには日本政府との協議にもとづく
アメリカ政府の決定に、完全に従属する軍隊を創設する場合は例外とする」
②「戦争または差しせまった戦争の脅威が生じたと
米軍司令部が判断したときは、すべての日本の軍隊は、
沿岸警備隊をふくめて、アメリカ政府によって任命された最高司令官の
統一指揮権のもとにおかれる」
③「日本軍が創設された場合、沿岸警備隊をふくむそのすべての組織は、
日本国外で戦闘行動をおこなうことはできない。
ただし、前記の〔アメリカ政府が任命した〕最高司令官の指揮による場合は
その例外とする」

いやー、これはおどろきです......。
ほんとうに、腰がぬけるほどおどろいてしまいました。
「アメリカ政府の決定に完全に従属する軍隊」
という表現もおどろきですが、
「国外では戦争できないが、米軍司令官の指揮による場合はその例外とする」
という条文もおどろきです。
そしてなによりのおどろきは、いままさに日本の自衛隊は、
66年前にアメリカの軍部が書いた、この旧安保条約の原案のとおりに
なりつつあるということなのです!

さらにショックなのは、
この原案が非常にしっかりとした背景のなかで書かれたものだということです。
「とりあえず、軍部が強気の要求を書いてみました」というようなレベルの
ものでは、まったくないのです。
実はこの原案をまとめたマグルーダー陸軍少将(陸軍省・占領地域担当特別補佐官)
は、すでにみたダレスの使節団にも主要スタッフ4人のうちの
ひとりとして参加しており、
問題の1951年2月2日の会議をふくむ事務レベルの交渉や、
吉田・ダレスのトップ会談の多くにもずっと参加しつづけていました。
そしてときにはダレスの言葉をさえぎってまで、
軍部の意見を条文に反映させるよう発言をくり返していたのです。

そもそも日本と平和条約をむすぶうえでのアメリカ政府の基本方針を、
同じくダレス使節団の主要スタッフだったアリソン公使(元国務省北東アジア部長)
とのあいだで調整作業(国務省・国防省間調整)をおこない、
1950年9月8日のトルーマン大統領の承認にまでもっていったのが、
このマグルーダー少将でした。
そして大統領から承認されたその基本方針をもとに、
マグルーダー少将を中心とする国防省のスタッフが条文をつくったのが、
この同年10月27日の「安保条約・国防省原案」(以下、マグルーダー原案)
だったのです。
さらにそれを国務省側の担当者(ラスク極東担当次官補)に送って協議し、
一部修正をくわえたもの(改訂第4版)が、
ダレスが翌1951年2月2日に提示した、あの旧安保条約のアメ
リカ側原案(「日米安全保障協力協定案」)となりました。
つまり旧安保条約とそこから派生した行政協定の条文に関しては、
マグルーダー少将こそがほんとうの執筆者であり、
かれがまとめたこの「マグルーダー原案」こそが、
旧安保条約と行政協定のほんとうの原案だといえるのです!

マグルーダー原案に予言された「日本の悪夢」とくに、
この第14条「日本軍」の条文の、①と②と③の関係に注目してください。
①と③には、これまで私たちがみたことのない、
「日本を再軍備させる場合は、
アメリカ政府の決定に完全に従属する軍隊として創設する」(①)
「創設された日本軍は、国外で戦争をすることはできないが、
アメリカ政府の指名した司令官が指揮する場合は、その例外とする」(③)
という内容が書かれています。
しかし②の部分をみてください。
「戦争または差しせまった戦争の脅威が生じたと
米軍司令部が判断したときは、すべての日本の軍隊は、
沿岸警備隊をふくめて、アメリカ政府によって任命された
最高司令官の統一指揮権のもとにおかれる」(②)
これはこの章でずっと追いかけてきた、
「再軍備と統一指揮権」について書かれていた
2月2日のアメリカ側原案・第8章2項、ほぼそのものなのです!

すでにのべたとおり、「再軍備」も「統一指揮権」も、
旧安保条約や行政協定の条文からは姿を消しました。
しかしその一方で、「再軍備」については
1951年2月3日の文書による密約によって、
「統一指揮権」については1952年7月23日の口頭での密約によって、
それぞれ吉田がアメリカ側と合意したことを、私たちはすでにみてきました。

また、そうしたオモテに出せない
「再軍備の計画や、戦争への対応について、
 徹底的に研究し、計画をたてさせる」
ためにつくられた密室の組織が、日米合同委員会だということも、
すでにみてきました。

それらを考えあわせると、①と③についても、
それらの内容が密約によって担保されているのではないかという
重大な仮説をもって、
これからさらに条文をさかのぼって調べる必要があります。

この「マグルーダー原案」のなかに予言されているのは、
私たちが安倍政権のもとで、いま、まさにおそれている、
「完全にアメリカに従属し、世界中のあらゆる場所で、
 戦争が必要と米軍が判断したら、その指揮下に入って戦う自衛隊」
という悪夢だからです。

このマグルーダー原案の「指揮権」についての条文を読めば読むほど、
現在の日本の自衛隊と米軍の関係が、
そこに書かれたとおりの状態になっていることがわかります。
それは「基地権」についても同じです。
同原案の第2項「作戦権限」には、
①「日本全土が、米軍の防衛作戦のための潜在的基地ポテンシャル・ベース
としてみなされる」〔全土基地方式〕
②「米軍司令官は、日本政府への通告後、
軍の戦略的配備をおこなう無制限の権限をもつ」〔日本の国土の完全自由使用〕
③「軍の配備における根本的で重大な変更〔=核兵器の地上への配備など〕は、
日本政府との協議なしにはおこなわないが、
戦争の危険がある場合はその例外とする」
〔事前協議制度の設定と、緊急時の完全自由行動〕

といった、ほかの国との基地協定ではまったく考えられないような条項、
しかし日本では戦後70年たったいまもなお、
「日米地位協定+日米合同委員会+基地権密約」という密約構造によって、
まさに現実そのものである条項が書かれているのです。

たとえば①と②をみてください。
米軍は必要とあれば、日本の国土のすべてを
米軍基地としてつかうことができ、
自由に軍を配備することができる。
軍部自身が作成したこの条項が、すでにみた、
「アメリカは、米軍を日本国内およびその附近に配備する権利をもつ」
という旧安保条約第1条の正体です。

そして③をみてください。
軍の配備についての重大な変更についてのみ、
日本政府と協議はするが、戦争の危険があるときはその例外とする。
この条項こそが、戦後、日本の首相たちがむすびつづけてきた
「核密約」や「事前協議密約」の正体なのです。
しかし、もちろん
「この軍部の書いた条文こそが、いまの日本の現実そのものだ!」と
さけぶだけでは、なんの証明にもなりません。
ですからこのあとPART2では、
さらに時間をさかのぼって、このマグルーダー原案が
生まれるまでの歴史的な背景にせまってみたいと思います。
そのプロセスのなかにはまちがいなく、過去60年以上にわたって、
われわれ日本人がずっとみずからに問いかけてきた、
「自分たちはなぜ占領終結後も、
これほどアメリカに従属しつづけなければならないのか」
という、大きな問題の答が隠されているはずだからです。


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