「悪い円安」加速 企業物価上昇で景気回復に冷や水
産経新聞 2021/10/15 19:51
https://www.sankei.com/article/20211015-WD3ODBPH2RNJXK57NJK5N4YARM/
15日の東京外国為替市場の円相場は一時1ドル=114円台を付け、平成30年11月以来、約2年11カ月ぶりの円安ドル高水準となった。米国の長期金利が高い水準で推移し、日米の金利差拡大を意識した円売りドル買いが活発化した。円安は輸出企業の業績拡大に寄与するが、半導体不足で輸出が滞る中での恩恵は限定的。逆に物価の上昇圧力が強まることで、新型コロナウイルス禍からの景気回復を遅らせる懸念もある。
外国為替市場では米連邦準備制度理事会(FRB)が年内にも段階的な量的緩和の縮小を開始するとの見方に加え、資源価格高騰によるインフレ懸念から2022年中にも利上げに踏み切るとの見方が強まった。米金利の上昇による日米金利差の拡大を見込み、有利なドル建てで資産を運用する流れが円を売ってドルを買う動きにつながった。
本来、円安は自動車など輸出企業の収益拡大を通じ日本経済にプラスになることが多い。だが、15日にはトヨタ自動車が半導体不足などを理由に11月の生産計画から15%程度減らすと発表するなど減産が深刻化。当然、輸出台数も減らしており、期待された円安の恩恵を受けられない状況に陥っている。
また、通常なら円安は日本国内での買い物が安くなることで訪日外国人客の増加につながるが、コロナ禍で入国制限が長期化した現状では「受けられる恩恵はゼロ」(旅行会社)だ。
一方、円安のデメリットも拡大している。最大の懸念材料は、円安と同時進行している原油価格の上昇だ。15日の東京原油市場では、欧州の原油需要の高まりなどで先物価格が1キロリットル当たり5万6千円を超え、年初来の高値を更新し3年ぶりの高水準。ガソリンや灯油、石油化学製品といった関連製品の原材料コストが高まり、暖房需要が高まる冬に向け家計負担が重くなる。
楽天証券経済研究所の香川睦チーフグローバルストラテジストは「円安と原油高は輸入コストの上昇につながりやすく、資源に乏しい日本の購買力や企業業績に影響を与える〝悪い円安〟になる可能性が高い」と指摘。コロナ禍による所得の低迷と値上げが重なれば、消費減退が国内経済の低迷につながる恐れもあると懸念する。(西村利也)
日銀が金融緩和策を維持 半導体などリスク 円安にも言及
FNNプライムオンライン2021年10月28日20時42分
https://topics.smt.docomo.ne.jp/article/fnn/business/fnn-261043
日銀は、金融政策決定会合を開き、現在の大規模な金融緩和策を維持することを決めた。
日銀は、28日に開いた金融政策決定会合で、長期と短期の金利を低く抑える大規模な金融緩和策を維持することを決定した。
その一方で、3カ月に一度取りまとめる「展望レポート」では、2021年度の実質GDP(国内総生産)の伸び率の見通しをプラス3.4%と、前回7月から0.4ポイント引き下げた。
新型コロナウイルスによる消費への影響が残るほか、半導体不足など、一部でみられる部品の供給制約の影響が、拡大・長期化するリスクにも留意が必要としている。
一方、外国為替市場で続いている円安ドル高傾向について、日銀の黒田総裁は、「現時点でですね、若干の円安ですけども、これがですね、何か、悪いやつとかですね、日本経済にとってマイナスになるということはないと」と述べた。
そのうえで、「輸出企業や日本企業の海外子会社の収益を考えれば、むしろプラスの効果がある」との認識を示した。
日銀総裁「悪い円安ではない」 今年度物価・成長率見通し引き下げ
2021/10/28 20:25
https://www.sankei.com/article/20211028-Q3I6I6AJXJLX5GQTGLNZJZLKUM/
日本銀行の黒田東彦(はるひこ)総裁は28日、金融政策決定会合後の記者会見で、一時1ドル=114円台まで円安が進んだ最近の為替相場について「〝悪い円安〟ではなく、日本経済にとってマイナスになることはない」との認識を示した。海外展開する企業の収益を押し上げる効果などが、輸入コストや家計負担増といった「マイナスの影響をかなり上回っている」と強調した。
日銀は会合後に公表した先行きの景気予測を示す「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」で、令和3年度の消費者物価上昇率見通し(中央値)を7月時点の前年度比0・6%から0・0%に下方修正。原油高や円安の影響で輸入物価は上昇しているが、黒田氏は「日本企業はコスト上昇分をマージン(利幅)の圧縮で吸収し、販売価格を可能な限り据え置こうとする」と説明し、デフレ期に定着した商慣行が値上げを阻んでいると指摘した。
ただ、日本が欧米のような急速なインフレに見舞われるリスクは「極めて限定的」と分析し、「徐々に物価が上昇していく」と予測。物価上昇率見通しは4年度が0・9%、5年度が1・0%と据え置いた。
また、展望リポートでは半導体不足や物流停滞の影響を受け、3年度の実質国内総生産(GDP)成長率見通しも、3・4%(7月時点3・8%)に引き下げた。黒田氏は半導体などの供給制約について、「影響が拡大、長期化するリスクに留意が必要だ」とした。
一方、今後はこうした影響が緩和され新型コロナウイルスのワクチン普及も進むとみて、4年度の成長率見通しは2・9%(同2・7%)に引き上げ。5年度は1・3%に据え置いた。
「悪い円安」日本経済にブレーキも
産経新聞 2021/11/4 10:48
https://news.yahoo.co.jp/articles/2cf03e268ab2b9b154bf2d2a3a7cd1d564ce074e
米連邦準備制度理事会(FRB)が3日に量的金融緩和策の縮小を決め、市場の関心は来年にも見込まれる利上げのタイミングに移る。米金利の上昇で国内の資金が米国に流れ、日本経済に悪影響を及ぼす「悪い円安」が進行すれば、新型コロナウイルス禍からの回復にブレーキをかける懸念が強まる。大規模な金融緩和策の出口戦略を描けていない日本銀行は厳しい立場に追い込まれかねない。
FRBが政策金利を引き上げて米金利が上がれば、0%程度にとどまる日本との金利差が広がる。投資家は米国内で投資した方が利益が上がるため円を売ってドルを買い、為替相場は円安ドル高に動く。パウエル議長は3日、利上げには慎重な見方を示したが、こうした将来の動きを先取りして相場が動きやすくなる。
円安は原油価格の高騰とも重なって輸入物価を押し上げる。エネルギーなど資源が乏しい日本では企業の原材料コストがかさみ、ガソリンや食料を始めとした国内製品の値上げが消費意欲を減退させかねない。
一方、円安が進むと輸出企業の売り上げ上昇を通じ日本経済にもプラスに働くが、この恩恵は以前に比べて小さくなった。円相場は2011年10月31日に戦後最高値の1ドル=75円32銭を付けたが、過去の円高時に企業が為替変動リスクを抑えるため米国や中国など大消費地に生産拠点を移し、産業構造は変化。近年の貿易収支は輸入超過で赤字になることも珍しくなく、かつての〝輸出立国〟を支えた円安効果は今や小さい。
追い打ちをかけるのがコロナ禍で長期化した入国制限だ。円安は海外からみれば日本での買い物が安くなり、訪日外国人客(インバウンド)の増加につながるが、水際対策の強化が続く現状ではそれも望めない。
円の購買力が低下したのは、実は足元だけの動きではない。円の実力を複数通貨と比べて示す「実質実効為替レート」は、今年9月時点で最も高かった1995年4月の半分弱に落ち込んだ。ニクソン米大統領(当時)が金とドルの交換停止を発表した71年の「ニクソン・ショック」後に円が変動相場制に移行した70年代前半(1ドル=300円前後)と同水準でもある。
だが、持続的な物価の下落傾向が景気を冷やすデフレから脱却できない中、日銀はFRBと異なり超低金利政策の出口が見えない。海外の中央銀行が相次いで金融緩和の「正常化」に踏み切っていることで、日銀は当面、「悪い円安」のリスクにさらされそうだ。
みずほ銀行の唐鎌大輔チーフマーケット・エコノミストは、円安進行を抑止するために、日銀が短期金利をマイナス0・1%に抑える「マイナス金利」の解除(利上げ)などを示唆すべきだと指摘。「それが難しいのであれば正常化のプロセスを検討する意思表示をしてもらいたい」と注文する。(高久清史)