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霜の朝 ・:,。* なめとこ山の熊

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今朝、
庭が薄っすらと白く、
キラキラ光っていました。

昨夜からチラチラ降っていた雪が
積もったのかしら…?

「どうしても雪だよ。おっかさん」
「雪でないよ」
「雪でなけぁ霜だねえ。きっとそうだ」 *:..。o○☆゚・:,。*

賢治の 「なめとこ山の熊」の
熊の親子の会話を思い出しました。


〜〜小十郎が すぐ下に湧水のあったのを思い出して
少し山を降りかけたら
愕いたことは 母親とやっと一歳になるかならないような子熊と
二疋ちょうど人が額に手をあてて遠くを眺めるといったふうに
淡い六日の月光の中を向うの谷をしげしげ見つめているのにあった。

小十郎はまるでその二疋の熊のからだから後光が射すように思えて
まるで釘付けになったように立ちどまってそっちを見つめていた。
すると小熊が甘えるように言ったのだ。

「どうしても雪だよ、おっかさん
谷のこっち側だけ白くなっているんだもの。
どうしても雪だよ。おっかさん」
 すると母親の熊はまだしげしげ見つめていたがやっと言った。
「雪でないよ、あすこへだけ降るはずがないんだもの」
 子熊はまた言った。
「だから溶けないで残ったのでしょう」
「いいえ、おっかさんはあざみの芽を見に昨日あすこを通ったばかりです」
小十郎もじっとそっちを見た。
月の光が青じろく山の斜面を滑っていた。
そこがちょうど銀の鎧(よろい)のように光っているのだった。
しばらくたって子熊が言った。
「雪でなけぁ霜だねえ。きっとそうだ」
 ほんとうに今夜は霜が降るぞ、
お月さまの近くで胃(コキエ)もあんなに青くふるえているし
第一お月さまのいろだって まるで氷のようだ、小十郎がひとりで思った。

「おかあさまはわかったよ、あれねえ、ひきざくらの花」
「なぁんだ、ひきざくらの花だい。僕知ってるよ」
「いいえ、お前まだ見たことありません」
「知ってるよ、僕この前とって来たもの」
「いいえ、あれひきざくらでありません、
お前とって来たのきささげの花でしょう」
「そうだろうか」子熊はとぼけたように答えました。

小十郎はなぜかもう胸がいっぱいになって
もう一ぺん向うの谷の白い雪のような花と
余念なく月光をあびて立っている母子の熊をちらっと見て
それから音をたてないようにこっそりこっそり戻りはじめた。
風があっちへ行くな行くなと思いながら
そろそろと小十郎は後退りした。
くろもじの木の匂においが
月のあかりといっしょにすうっとさした。〜〜








宮沢賢治『なめとこ山の熊』 朗読








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