
パウル・クレーの 「新しい天使(Angelus novus)」1920
Oil transfer and watercolor on paper 31.8 x 24.2 cm
「この世では、ついに私は理解されない。
何故なら私は、未だ生まれざるものたちのもとに、
そしてまた死せる者たちのもとに住んでいるからだ」
〜クレーの墓石に刻まれた言葉
ベンヤミンの『歴史哲学テーゼⅨ』より〜
「『新しい天使』と題されているクレーの絵がある。
それには一人の天使が描かれており、
天使は、彼が凝視している何ものかから、
今にも遠ざかろうとしているように見える。
彼の眼は大きく見開かれていて、口は開き、翼は拡げられている。
歴史の天使はこのような様子であるに違いない。
彼は顔を過去に向けている。
僕らであれば事件の連鎖を眺めるところに、
彼はただ破局(カタストローフ)のみを見る。
その破局は、休みなく瓦礫の上に瓦礫を積み重ねて、
それを足元に投げ出して行く。
たぶん彼はそこに留まって、死者たちを目覚めさせ、
破壊されたものを寄せ集め、組み立てたいのだろうが、
しかし楽園から吹いてくる強風が彼の翼にはらまれるばかりか、
その風の勢いが激しいので、彼はもう翼を閉じることができない。
強風は天使を、彼が背中を向けている未来の方へと、
否応なしに運んで行く。
その一方で彼の眼前の瓦礫の山は、天に届くばかりに高くなる。
僕らが進歩と呼ぶものは、この強風なのだ」