日弁連災害復興支援委員会の津久井進委員長「コロナ禍に災害法制の知恵を生かせ」
津久井弁護士は、2020年4月、
新型コロナウイルスの対策に「災害法制を活かせ!」という提言(約200名の弁護士賛同)を取りまとめた。
特措法では対応できないことが、災害対策基本法でできる。
緊急事態宣言が出た後の国民の不安は、
災害が起きたあとの被災者の気持ちと重なる。
恐怖や不安は、まさに災害の直後の被災地そのものである。
じゃあどうしたら良いか?
生活再建や、危険からどうやって逃れるかということは、
自治体の経験、知恵の蓄積がある。
災害の法律も、それを救うための仕組みもある。
であれば、それを使えば良い。
日弁連では、
新型インフルエンザ、
2010年宮崎県の口蹄疫、
これらを「災害」と受け止めて対応した。
日弁連の「災害の定義」には、地震、台風などと並んで、
「感染症の蔓延」もちゃんと入っている。
日弁連の法律家は、「感染症の蔓延=災害」である。
なぜ新型コロナウイルスの蔓延に「災害」に対応をしないのか⁈
これに義憤を感じて意見を出すことになった。
※2010 年宮崎県口蹄疫災害と危機管理・復興の課題
Lessons from the foot-and-mouth disease pandemic of 2010 in Miyazaki in terms of emergency management and disaster recovery.
SUMMARY 関西大学 社会安全学部 永松伸吾 (教授)
https://www.kansai-u.ac.jp/Fc_ss/common/pdf/bulletin001_12.pdf
コロナで困る人に「災害対策基本法」が有効な訳
「自然災害とみなして対応を」弁護士の提言
東洋経済 2020/04/21 15:30
https://toyokeizai.net/articles/-/345817
新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐには、災害対策基本法も有効だ――。東日本大震災以後、災害支援に当たってきた弁護士らがそう訴えている。4月16日には「災害対策基本法等で住民の生命と生活を守る緊急提言」を発表し、コロナの感染拡大を“自然災害”と位置付けて対処せよ、と提言した。その核心は何か。提言の中心になった津久井進弁護士(兵庫県弁護士会)に聞いた。
「津波や地震から逃れるのと同じ」
「緊急提言」は冒頭で、次のように言う。
〜新型コロナウイルス感染症の拡大は、災害対策基本法(以下、災対法)第2条1項1号が定める「異常な自然現象」と解することは十分可能です。この新型コロナウイルス感染症の拡大という事象を「災害」と捉え、現在の新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく対策のほか、災対法やその他の災害対策関連法制を利用し、更なる感染症の拡大防止、生活等の支援が可能となります。
そこで、私たちは、新型コロナウイルス感染症の拡大を災対法の「災害」に認定するなどの弾力的運用あるいは制度転用を行い、災対法をはじめ、災害時の各法制度を活用することを緊急に提言いたします。〜
その上で「提言」は災対法を利用することで
① 市民に自宅待機を求めることができる
② 「警戒区域」を設定することで立ち入りを制限することができる
③ 激甚災害制度を活用することで事業者が雇用者を解雇せずに雇用保険の基本手当を支給できる
という3つの支援策が早期に可能になるとしている。
感染症の拡大を自然災害とみなして、迅速な対応を取れ――。その大胆な発想はどこから生まれたのか。津久井弁護士は「まず必要なのは危険の回避。津波や地震から逃れるのと同じです」と言う。津久井弁護士は日本弁護士連合会の災害復興支援委員会委員長も務めている。(中略)
歴史上は疫病も災害だった
「感染症も自然災害」とする背景には、いくつか根拠があるという。その1つは歴史だ。津久井弁護士が続ける。
「鴨長明の『方丈記』には、飢饉(ききん)の話とともに疫病の話が出てきます。鎌倉時代から、日本では災害と貧困(飢饉)と疫病はワンセットだったんです」(中略)
実は新型コロナウイルス感染症についても、東京都知事は4月6日、ホテルに隔離している感染者への生活支援を目的に自衛隊に災害派遣を要請している。ほかにも千葉や神奈川、埼玉などの各県知事も同様の要請をした。
自衛隊法第83条第1項では「天災地変その他の災害に際して、人命又は財産の保護のため必要があると認める場合には、部隊等の派遣を防衛大臣又はその指定する者に要請することができる」とある。新型コロナウイルス感染症は「その他の災害」に当たるという考え方だ。
アメリカはテロと自然災害に対応する組織が動いている
津久井弁護士は言う。
「今回も自衛隊法は柔軟に使っているけど、災対法は使ってないんです。他国の対応を見ると、自然災害への対応を担う危機管理部門が動いているんですね。アメリカでは、テロと自然災害に対応する連邦緊急事態管理局(FEMA)が動いています。一方の日本は? これは厚労省、これは内閣府、これは経産省など、省庁の縦割りの中で連携がうまく取れていません。(省庁級の)危機管理部門がないのは本当に大きな問題」
日本弁護士連合会が制定した「全国弁護士会災害復興の支援に関する規程」では、災害とは何かについて「感染症のまん延」を含めている。(中略)
「新型コロナウイルス感染症への対処は、医療者が中心ですが、今、喫緊の問題になっている生活や営業上の危機、不安感をどう解消するかは、大規模災害のときと本質は同じなんです」
「今回のコロナを災害とみなすことはできないか、と国会議員に聞いたことがあります。その議員は官僚に聞いてくれたのですが、次のように反論されたそうです。
政府は知恵を絞り、国民の生活を支えよ
『政令で指定はできる。しかし、もし入れると、中央防災会議(会長=総理大臣)の防災基本計画に感染症対策を含める必要がある。そうなると、都道府県の地域防災計画にも含めないといけないので調整が必要になる。だからできない』、と」
「声を大にして言いたいのは、2つのことです。1つは、政府はちゃんと知恵を絞りなさい、ということ。もう1つは、新型コロナウイルス感染症対策は、予防だけでなく生活を支えることが必要。そこをきちんと支援してくれ、ということです。今の自宅待機は、自然災害で大量に生まれる在宅被災者と同じです。個別対応ができないと孤立死が増える。コロナ関連死も起きる。事業再建から取り残されて生活再建もできなくなる人が出てきます」
取材:木野龍逸=「フロントラインプレス(Frontline Press)」
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この国はどこへ コロナ禍に思う 元鳥取県知事・片山善博さん 安倍首相の差配、ピント外れ
https://globalethics.wordpress.com/2020/04/14/この国はどこへ%E3%80%80コロナ禍に思う%E3%80%80元鳥取県知事/
毎日新聞2020年4月14日 東京夕刊
「ついに」なのか、「やっと」と言うべきか。新型コロナウイルス感染拡大に伴い「緊急事態宣言」が7日、発令された。「遅いですよ。都道府県が法的な手段をとれるようもっと早く出すべきだった」。鳥取県知事時代に災害対策の陣頭指揮を執った早稲田大教授の片山善博さん(68)は、いら立ちを隠さない。
3月にさいたま市で開かれた格闘技団体「K―1」のイベント。集団感染を懸念した埼玉県知事は会場に出向いて自粛を求めたが、主催者は予定通り実施した。「知事はすごすごと帰るしかなかったが、法的な裏付けがあれば堂々と中止を求められた」と歯がゆさを語る。
安倍晋三首相がこだわったのが、緊急事態宣言とセットで打ち出した経済対策だ。108兆円に上る規模を「史上最大」「世界的にも最大級」と誇った。
「かつてない規模だと胸を張ることに何の意味があるのか。規模の大きさでウイルスを封じ込められるのでしょうか。情けないほどピントがずれています。今やるべきは経済対策ではなく、ウイルス対策と生活や雇用などのセーフティーネットづくり。まずは一日も早く終息させ、国民の命や健康を守るべきです」。それには人の動きをできるだけ止めること、PCR検査(遺伝子検査)の徹底や医療崩壊の阻止、有効な薬を見つけて投与できるように手立てを講じることが必要だと考える。
緊急事態宣言が発令され、人通りが少ない新宿の繁華街=東京都新宿区で2020年4月8日午後、幾島健太郎撮影
政府は緊急事態宣言を出した後、休業要請先を限定し、理髪店などを除外した。「与党と関係の深い業界の声を優先させるなどという考えは捨て、割り切ることが難局を乗り切る早道。終息までの間に経済は落ち込む。でも平時に戻れば、必ず景気は回復するし、必要なら景気対策を打つ。経済についてはそのメッセージさえあればいい。観光クーポン配布などは今のところまだ先の話。パフォーマンスばかり目立ち、ピントがずれています」
7日夜に記者会見した安倍首相は、ホテルチェーンの社長に軽症者を受け入れるよう自ら依頼したと胸を張った。「首相がやることと、都道府県がやることの区別がついていない。ホテルを借り上げる契約は都の仕事。国は、都道府県が軽症者の取り扱いを柔軟にできるよう制度を改正しておくべきだった」
これまでは感染症法に基づき、陽性になった人は無症状や軽症でも入院させなければならなかった。そのため、ベッドを軽症者が占め、重症者が入院できない事態が懸念された。4月に入ると感染者が急増し、厚生労働省は軽症者をホテルや自宅などで療養させることを検討するよう都道府県に通知した。後手に回った政府対応に「泥縄でしかない」とため息をつく。
なぜ、積極的にPCR検査をしなかったのか。片山さんは感染症法の観点から答えを探る。「検査を増やして感染者が増えれば、入院患者が増えてベッドが埋まる。だから重症者を見つけることが主眼だと強調し、軽症者の検査を抑えたのではないか。であればこそ、軽症者を病院以外の施設に入れられるように制度を早い段階で柔軟にしておくべきだった」
片山さんは、収入半減世帯に30万円を給付する対策などは「場当たり的」で不安除去につながらないと考える。全世帯に2枚配る布マスクについては「苦笑せざるを得ません」と言う。布マスクを思い付いたのはなぜか。片山さんが注目するのが、安倍首相が「3月は月6億枚以上、供給を確保します」と宣言した2月29日の記者会見だ。「おそらく6億枚を確保できなかったのでしょう。世帯に2枚配れば納得してくれると考えたのかもしれない」と推察する。
危機にひんした時、政権の本質があぶり出される。「これまでもいいかげんな説明を重ねてきました。五輪招致の際に東京電力福島第1原発の汚染水はアンダーコントロールだと言ったり、森友・加計学園問題を巡る不可解な釈明だったり。これまでは国民は時間がたてば忘れてくれたのかもしれませんが、マスクは今も最大級の関心事。いいかげんなことをきっぱり言うという手法が、今回ばかりは通用しなかった」
鳥取県西部地震が発生した2000年、同県知事だった片山さんは全国で初めて住宅再建のため個人に公的補助を行った。「国は、県のお金であっても公金を個人の資産形成に投じることは認められないと、圧力をかけてきました。でも、家を建て直す気力も資力もない人たちは地元を出るしかない。公共事業で道路や橋を直しても、住民がいなければ意味がない。第一に考えるのは、地域での安定した生活です」
それは新型コロナが広がる今の局面にも当てはまる。「セーフティーネット構築が必要なのは、日本社会を守るため。感染が収まるまではまともに事業が続けられず、生活を維持できない。国民がへこたれてしまうから、政府による生活再建策が必要なのです」。手当てをすべきは、社会保障の網からこぼれ落ちてしまう人々だ。「これは政権があまり関心を寄せてこなかった分野で、いわば土地勘がない。だから的確な手を打てず、どうしても経済対策が優先されてしまう」
今こそ周囲の英知を結集する時。しかし、長期政権のひずみはここにも表れている。「各省には専門家がいるのに、意見が集まってきていないように見える。異論があっても、進言すればしかられる。物言えば唇寒し秋の風。官邸から指示されたことだけやればいい。霞が関はそんな組織になってしまった」。政権の周りがそんたくや保身を考える役人ばかりになれば、霞が関が機能するはずもない。
片山さんは鳥取県知事を2期務め、菅直人内閣では総務相に就いた。在任中の11年、東日本大震災に直面。菅元首相は福島第1原発事故発生の翌日、混乱する現場にヘリコプターで訪れ、批判を浴びた。「原発事故は放射能との闘いだった。菅さんはそのオペレーションの総指揮官として全体像を把握し、組織をフル稼働させるという自らの立場を必ずしも十分に認識していなかったようだ」。それは今の安倍首相にも当てはまる。「危機に遭遇した時の2人はよく似ている。安倍首相も率先して目立つことばかりしているようです。学校の一斉休校要請にしても、ホテルチェーンへの軽症者受け入れの依頼にしても」
危機に対応するリーダーには、何が求められるのか。「大所帯を切り盛りして、要所を見極め、広く目配りができる能力です。組織管理能力がある人をトップに選ぶという視点がとても重要」。先の見えない国難にあり、その言葉は重く響く。
「安倍政権がこのような体質になったのも、野党を頼りなくしたのも、選挙で1票を入れた国民の責任です。民主主義とは、自業自得の仕組み。国民が選んだ結果、報いがくるわけです」。そのメッセージは、私たち一人一人に向けられている。【鈴木梢】
■人物略歴
片山善博(かたやま・よしひろ)さん
1951年生まれ。旧自治省を経て鳥取県知事2期。旧民主党政権で総務相を務め、慶応大教授を経て2017年から早稲田大教授。
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●災害対策基本法
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=336AC0000000223
● 防災基本計画
災害対策基本法(第34・35条)に基づき、中央防災会議が作成する基本指針を示す防災計画で、防災分野の最上位計画である。
● 『災害復興とそのミッション―復興と憲法 』
片山 善博 (著), 津久井 進 (著)
単行本 - 2007/8/23
● 弁護士・葦名ゆきさんブログ
https://plaza.rakuten.co.jp/yyy0801/diary/201212020000/