【ポロっと出てきた…スケッチ①】嫌われ松子の一生
このスケッチ↑の他にも、
未整理の紙の束の中から、
ポロリと出てきたスケッチがもう一枚。
蔵書の土門拳の写真集『風貌』の中の
志賀直哉の美しい額の頭蓋骨と
日本の懐かしい風景を映し出しているような
老いて澄んだ眼差しに
魅せられて描いた記憶が…

中の海の彼方から海へ突出した連山の頂が色づくと、
美保の関の白い燈台も陽を受け、はっきりと浮び出した。
間もなく、中の海の大根島にも陽が当り、
それが赤鱏を伏せたように平たく、大きく見えた。
村々の電燈は消え、その代りに白い烟が所々に見え始めた。
然し麓の村は未だ山の陰で、遠い所より却って暗く、沈んでいた。
謙作は不図、今見ている景色に、
自分のいるこの大山がはっきりと影を映している事に気がついた。
影の輪郭が中の海から陸へ上って来ると、
米子の町が急に明るく見えだしたので初めて気付いたが、
それは停止することなく、恰度 地引網のように手繰られて来た。
地を嘗めて過ぎる雲の影にも似ていた。
中国一の高山で、輪郭に張切った強い線を持つこの山の影を、
その儘、平地に眺められるのを稀有の事とし、
それから謙作は或る感動を受けた。
〜『暗夜行路』
時任謙作が鳥取の大山から美保湾 中海 日本海側を見晴るかすシーン〜